【柴草玲、ニュー・アルバム『うつせみソナタ』におけるサウンド・ワークを大いに語る。】

《変態ロマンチックの効用》

―前作の『レクイエム』を作ったときに、ひとつの終結ではないけれど、区切りがついてしまったというお話をしていましたが、サウンド・ワークの面でも一区切りしたところがあったりしたんですか?

「サウンド・ワークに関してはやりきったということはなくて、毎回レコーディングを終了するたびに、まだまだいろいろなことができるなと思うんですよ」



―今回の『うつせみソナタ』の制作に入るときというか、前作『レクイエム』を作り終えたときには、サウンド・ワーク的には、どんなことを次にやりたいと思っていたんですか。

「前作で成田忍さんとやったんですが、成田さんはこういう世界を作ってくれるとか、あと高橋圭一さんとはこういう分担作業ができるんだとか、そういったことがわかったので、次はその延長でより良いものを作っていけたらなと思っていたんです」



―成田さんとのセッションというのは、具体的にどんな世界になると、柴草さんは思ったんですか。

「基本的にはギタリスト、ギターを弾く人なのですが、アレンジの中では、ギターを強調したアプローチではないんですね。
それになんかもう私とは全然違うところからの発想をしてくれるんですよ。
だけどナキの部分がある。
私はそれを変態ロマンチックといっているんですが、その変態ロマンチックさ加減をいつも期待して、なんと言うことはないと思うポップなメロディーの楽曲アレンジをお願いすると、ものすごい面白い効果が生まれるんです。
今回は"祭りばやし"をお願いしたんですが、やはりすごいものが上がってきましたよね」



―日本の祭りの世界から、ヨーロッパなどのカーニバルの世界に発展していくアレンジが、面白かったですよね。

「成田さん的には、宮沢賢治の"銀河鉄道の夜"のような、少しシュールなイメージがあったみたいです。ちょっと異次元というか、異空間な感じにしたいということだったので、それは私も大賛成でした。
というのも、この曲はベタなアレンジをしてしまうと、とてもつまらない。
ちょっと空間のねじれた感じがいいなと思っていたので・・・。
成田さんはそういう温度感を分かってくれるので、どんなことをやっても大丈夫!!というぐらい全面的に信用しているんです」

 

《もうひとつの変態ロマンチック》

―今回はもう一人、山口一久さんが参加していますよね。

「山口さんは、鳳山雅姫さんなどのアーティストに曲を書いたときにアレンジをしてもらったんです。成田さんとはまた違った肌触りの変態ロマンチックさを持っているんです。
そこのところを期待して、とにかく淡々としたサウンドにしたかったので、なんとなくノスタルジーな感じでとお願いしたんです。
そうしたら弾き語りでやっているときよりも、かなりポップな感じに仕上がってきて、初めはこんなにポップになってしまったけれど大丈夫かな?!と思ったのですが、何回か聞いていくうちに、これは大成功だったと思いましたね」



―男と女の違いはあれど、今のお話を聞いていると、柴草さん、成田さん、山口さんは音楽家としてシンパシーが同じなのかもしれないですね。そんな中、誰にどの曲をお願いするか、ということは迷ったりしないものなんですか。

「どの曲を誰に頼むかは迷うことなく決まりましたね。だから"川辺"は山口さんにお願いしたら絶対に良くなる!!という確信があったんです」



―それから今回は、『遺伝子』の中に収められている「FAX」でセッションした中村さんとも久々にやっていますよね。

「海外とやり取りしたいという思いがあり、最初はほかの人にお願いしようという話もあったのです。
それが断ち切れ状態になっていたときに、そういえばニューヨークのあの変態がいた!!と思いまして。
彼は変態感がありながらも、理論的なところも持っていてスコアも書ける人なんですよ。
"煉瓦のかぞえ唄"は、クラシックの要素があるので、変っているプラス、アカデミックなことをやってもらいたかったんです」



そしてアルバム中唯一の幸せソング「国立」は、実にオーソドックスなアプローチですよね。

「これはもうとにかく暖かい感じでやろうと思い、なんのひねりもなく、特にアレンジをしたというところもないんです。
皆さん上手な人(プレイヤー)たちなので、楽曲を聴いてもらい、ポイントとなるところの説明をしただけでしたね。 しかも3〜4テイクでOKという」



―こういうスタンダードなアプローチこそ、プレイヤーの皆さんが音楽を分かっていないと、確立されていないとペラペラでチャチな音になってしまうものですよね。

「皆さんものすごく大人ですよね。多くは語らないけど、きちんと語ってくれているというね」

 

《掟破りの1曲と執着からの脱却》

―アルバムの後半は、柴草さんアレンジとなっている。

「中でも"微粒子"は、久しぶりに一人で自宅打ち込みしまして、楽しかったですね。
この曲もピアノを始めにレコーディングしたんですけど、録って見たらダイナミクスがついてしまい、意外と情念な感じになってしまったんですよ。
そこで一瞬、ほかの方にお願いしてサウンドを遊んでもらおうかとも思ったのです。だけど1曲ぐらい自分でやるのもいいかなと思い、"遺伝子"同様、うちにあるサウンド・キャンパスという安い音源を使ってやって見ました」



―久々に一人でやった感想は?

「機械には弱い私ですが、これは使えるな!!という感じですか。
実はミュート・ギターも私が弾いているんですね。
この曲はオケを作る段階は面白かったですね。でも歌を歌う段階はつらかった」



―確か、この曲は掟破りの1曲ということですよね。

「一番とんでもない曲を歌ってしまったという・・・。相手の女性に対して失礼の何者でもないと思いつつも、ミュート・ギターを弾いてハシャイデいる私がいるというね。
ただそういった裏事情を知らずに聞いてくださる方からは、音がコロコロしていてカワイイ!!という感想をいただくこともあるんです。
そうやって聴いていただけたら一番いいなと思っているんです」



―今回は、前2作品の思い入れ全開という感じとは違い、音楽家としての部分を提示した仕上がりになっているように思ったんですが・・・。

「結果として、そうなっていると嬉しいですね。アルバムを作っているときは、次のステップに入っているという考えを、自覚していたわけではないのですが・・・。
ただ、良い意味で楽曲を突き放すことを覚えたところはありますね。
『レクイエム』『あじさい』は、本当に大嗣に抱えてしまったところがあって、今回は少し楽曲と距離を置けたのかもしれない」



―以前は楽曲を溺愛していた!!

「というよりも執着というかね。今回はいろいろな意味で、執着を手放すという課題が与えられたレコーディングだったのかもしれないですね」


text by Mika Kawai


柴草玲New Album“うつせみソナタ” OWCP2003 定価\2,100(税込み)
全国CDショップにて好評発売中。

1. 川辺 2. 祭りばやし 3. 煉瓦のかぞえ唄 4. 国立 5. 微粒子 6. 7月5日(月食) 7. 虚蝉 8. 前山にて

期間限定のサイト“うつせみソナタ”が公開中です。
柴草玲の“よむラジオ”や音楽ライター河合美佳さんによる各楽曲解説、そして関係者のみなさんからの“うつせみ”に関する寄稿等を掲載しています。
http://www.capital-village.co.jp/utsusemi/

CBCラジオ“いっしょに歌お!CBCラジオ8月の歌に“祭りばやし”9月の歌に“前山にて”が選ばれました。
これを記念して、コンビニエンスストアのサンクスにてこの2曲を収録した限定シングルが発売中です。
愛知、岐阜、三重、静岡の4県のサンクス全店にてお買い求めいただけます。
10月10日までの限定販売です!!
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Kamakura FM(82.8MHz)にて柴草玲パーソナリティー番組“うつせみソナタ”絶賛放送中です!
9月28日までの期間限定放送番組ですので、お聞き逃しなく!!
毎週日曜日17:00〜17:58
http://www.kamakurafm.co.jp/

9月1日(月)よりUSEN ENTA!!にて柴草玲インタビューが掲載されています。
USEN ENTA!!
http://www.usen.com/enta/
USEN ENTA!!>INTERVIEW
http://www.usen.com/enta/interview.html

【雑誌掲載情報】

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